paris and cinema

第8回パリ紀行(2006.5)
chapter 4 カフェ・モデルヌ

  パリに住む友人のアニエスと、再会を祝して夕食会を開いた。パリ生まれパリ育ちの彼女は、いわゆるパリジェンヌ。その昔、パリで日本から輸入された写真集を発見。ウネウネと巡る首都高や廃墟のような渋谷の街角の写真に、とてつもないエキゾティズムを感じて来日すると、そのまま3年間居ついてしまったという女性だ。


  夕食会の場所は、バスティーユ駅からヴォルテール街へ少し歩いたところ。この辺は東京で言うとどこにあたるのか。新宿東口か渋谷か、はたまた六本木か。ともかく若者を中心にそれぞれお気に入りのレストランやカフェに集まって、遅くまで語り明かすというスポットの多いところだ。アニエスによれば、中心部とは違った雰囲気でパリの旧い繁華街の面影が残っている場所だという。繁華街といっても、日本のようにギラギラのネオンサインや看板は無いので、街の風景自体は落ち着いているのがパリのいいところ。駅から10分ほど歩いてちょっと脇にそれた場所に、待ち合わせた「カフェ・モデルヌ」はあった。


  あえて訳すなら“モダンなカフェ”という意味のレストランは、その名が冗談かと思うほどのレトロなインテリア。出来た頃はモダンだったのだろうが、いまは立派に伝統的なレストラン。料理も肉料理を中心にしたプレートやクスクスを出したりして、やっぱりどちらかと言うとモダンでない。付近では有名な店らしく、夜9時をまわると続々人が集まってきて、すぐにいっぱいになった。ちなみに日没が9時近いこの季節は、人々が夕食に集まるのも早くて8時くらい。それまではカフェでうだうだしたり、散歩したりということらしいが、東京とはずいぶん感覚が違う。我々とアニエス、そして彼女のパリ友達で、とあるファッションのメゾンにパタンナーとして勤めるAさんと、楽譜を制作する会社に勤めるBさんというふたりの日本人が加わって、5人の小さな夕食会が始まった。


  ふたりは長くパリで働いているそうだが、日本との職場環境や商慣習の違い、外国人に対する雇用条件の交渉などで随分頭を悩ませているようだった。我々などつい、パリで仕事を持って働いているというと「うらやましい」と思ってしまうが、現実にはそれほどカンタンではなさそうである。


 ところでこのレストラン、店員のひとりが「おきまりですか?」「お下げします」「はい、お勘定」とやけにタイミング良く的確な日本語を話す。決まり文句しか言えない割に、とても発音がいい。教えた人間が上手いのだろう。近所には日本料理屋も多いし、飲食系の人づきあいに日本人が多いのかも知れない。最後に店を出ようとすると突然「ヨウジ・ヤ〜マモ〜トも来ました。」と言い出す。日本びいきなのだ。