paris and cinema

第8回パリ紀行(2006.5)
chapter 2 やさしきフロントマン

  着いてみると、思いのほか小振りのホテルだった。銭湯の番台くらいのフロントからして、部屋の小ささを予感させるプチな造りだったが、案の定、通された35号室はプチホテルという名前の愛らしさとはウラハラの小部屋。しかも浴槽がなかった。たいしたことではないし、パリのホテルでは珍しくもない。しかし毎日仕事で町中を何キロも歩き回る2人にとっては、身体を癒すならたっぷりと湯を張った風呂につかって「ふはぁ〜」というのがいちばん。というわけで、フロントに言って、浴槽付きの部屋がないか聞いてみた。


  やさしいナイスガイのフロントマンは、僕のつたないフランス語も丁寧に聞いてくれ、「今日は空きがないけど、明日なら63号室の浴槽付きの部屋に空きがでる」という。「まだ今晩の客が来ていないから、とりあえず部屋を見ていいですよ」と鍵を渡してくれたので、妻とともに喜び勇んで見学に。そこは最上階。いわゆる屋根裏部屋改装系のダブルルームだった。パリのホテルにありがちな勾配天井の部屋は、小さな窓だが眺めは抜群。マルソー大通りの喧噪も、空が広がるこの高さならまったく問題ない。う〜ん、完璧。 


  急いでフロントに明日からでいいから部屋を変えたいと申し出る。「じゃあ、明日のフロント係に申し送りしておくよ。荷物はまとめて置いといてくれたら63号室に運ばせておくから」とやさしいオファー。とりあえず知っているフランス語の感謝の言葉を全部言って彼をねぎらい、部屋へと戻った。


  このホテルは、たまたまNTTの無線LANブロードバンドサービス「ホットスポット」が提携する「ipass」というネットワークが使えるという。持参していたパソコンを立ち上げて接続すると、見事に成功。はじめてパリに来た9年前、電話が通じて喜んだ時と比べると隔世の感がある。メールチェックもウェブも日本にいるのと変わらない、ふだん通りの快適さ。別にメールがないと生きていけないという私でもないのだが、あれば安心するというのは現代病なのだろうか。