paris and cinema

ベルギー&パリ紀行(2003.9)
chapter 5 ああ、なつかしのブルージュ。

 実はベルギーへの旅は今回が最初ではない。10年前に新婚旅行で訪れたことがある。正確にはブルージュで結婚式を挙げて、そのついでにベルギー国内をまわったのだった。そのときに若気の至りで「10年後の同じ日にまた来て、同じ部屋に泊まろう」とおとぎ話のようなことを言って、本当に来てしまったというわけだ。


 ブリュッセルからブルージュへは、特急でわずか約1時間。しかし、言葉はフランス語からオランダ語の一方言であるフラマン語へと一変する。車内のアナウンスも2カ国語。風景も、プチパリともいうべきブリュッセルを後にすると、あとはドイツかオランダのような牧歌的な町がならぶ。ほどなく優美な鐘楼と赤い瓦屋根がつづくブルージュが車窓に見えてきた。10年前は雨続きだったこの町も今回はすっかり晴れて、駅前も見違えるほど賑わっていた。


運河の水面から見たホテル「ディ・スワン」

 タクシーに乗ってホテルへ向かうが、その間からすでに観光気分。「北のベニス」「中世のまま止まった町」とは良く言ったもので、おとぎの国のような街並みは今も健在だ。  町の美しさを象徴する運河沿いの小道を入ってホテル「Die Swaene」(ディ・スワン)の前へ。


 その名の通り、白鳥のように白く清楚な佇まい。着くやいなや、ハンサムな男が出てきて荷下ろしを手伝ってくれる。そう、これがこのホテルの「男前戦法」だ。10年前に来たときも“態度の良いブラピ”みたいなフロントで、私も男ながら惚れそうになったが、今回もなかなかの好男子だ。きっと町では数々の女性、ときには男をも泣かせてきたに違いない。


 そしてかつても泊まった29号室。予約のときにリクエストを入れておいたものの、実は数年前に全面 改装したということを聞いていたので本当に同じ部屋かどうかちょっと心配したのも束の間、懐かしい階段を上がって着いた部屋はまさしくそこだった。


 彼が「ここでしょ?」というので、ふたりで「イエース!」と答えて中へ入った。内装こそモダンになっていたが、窓から見える運河の景色は全く変わらない当時のまま。違うのは、テーブルに置いてあるリンゴが青いことだけだった。


 10年前、朝食のラウンジだった場所は、改装後にはフレンチのシェフを呼び寄せた立派な星付きのレストランになっていた。我々もせっかくだからと、結婚記念日の夜は奮発してここでディナーをいただくことに。夜8時くらいまでは明るい時期のせいか、7時にディナーを始めるのは我々くらい。早速シャンパンをもらってコースに食らい始めた。さすがにどれも美味しく、食材も贅沢なものばかりだ。しかし思いのほか量が多い。前菜、スープと来ただけで妻は普通にお腹いっぱい。そのあともう一品料理が入って、メインは魚も肉もしっかり出てくる。しかもデザートチーズの代わりに山羊のチーズが入ったラビオリが届けられるに至って、我々の胃はついにギブアップを宣言した。これだけの量を出しておきながら食事をサーブしてくれた女性は、最後に残った我々のラビオリを見て「気になさらないで。山羊のチーズだから、お口に合わないって言われる方も多いんですよ。」とひと言。いやいやそうでなくて、と言い訳を聞く前に彼女は引っ込んでしまった。


 食後のコーヒーは場所を変えて、バー風のカフェラウンジで。薄い扉をはさんで隣が厨房なのだが、シェフがしきりに怒鳴っている声が聞こえる。ま、まさかラビオリを残されたことに腹を立てたのでは・・と心配したが、気むずかしいシェフで良くあることなのか例のイケメンフロントが厨房に行ってしきりになだめている様子が伺える。ここでも彼は、格好良くて態度の良い若い男が好きな我々の気持ちをグッとつかんだ。