paris and cinema

ベルギー&パリ紀行(2003.9)
chapter 1 快適な空の旅にご用心。

 ヨーロッパ旅行の直前となると、楽しみなはずなのに身体のどこかがこわばる。その原因は、飛行機のあのシート。なにしろ日常の生活において、あのような狭い場所で妙にかしこまってちょこんと座る感覚は、トイレの便座くらいでしか味わえない。なのに「快適な空の旅をお楽しみください」と美人声のスチュワーデスさんは言う。航空会社も罪なものである。


  私としても慣れたつもりでいるから、口では平然と「最近のエコノミーは座席がひろくていいね」といいながらも、筋肉は緊張し、呼吸はやや荒くなる。シートベルトをつけ、飛行機が動きだすと、両手を肘掛けにしっかりとくっつけてスタンバイ。機体が傾いて陸を離れるときには、「おぉ〜」と小さなうめき声が自然にもれる。となりに連れ合いがいるからいいようなものの、ひとりでいたらちょっと恐いかも知れない。


スイス・チューリッヒ空港

  そしてそのあとの約12時間、軽い緊張状態のままヨーロッパまで連れて行かれるわけだ。私にとってはこれはヨーロッパへ行くための通過儀礼というか、関所のようなもので、これがために着いてからずいぶんと疲れる。それでも最近は日系の航空会社は個人用のテレビがついたり、ゲームができたりで楽しくなったけれど。


 日本からの直行便がないブリュッセルに行くために、今回はじめてスイスのチューリッヒで乗り換えとなった。いつもはパリ直行便に乗るが、スイスに行く便はさすがに日本人客の顔が違う。若い人も、熟年層もみんなどことなく“ほがらか〜”“さわやか〜”としている。 パリ便では割とツンとした方も多かったりするが、スイス便は「健全」そのもの。なぜか男性グループが多いのも特徴的である。元ワンダーフォーゲル部か、はたまたコーラス系か。私の妄想は広がるばかりだ。
そして飛行機はチューリッヒ空港に到着。降り立ったのは出来たてほやほやの「Dock E」と呼ばれるターミナル。自然味あふれる周辺の環境をそのままスクリーンにしたようなガラスウォールの設計は、モダンで、どこかストイックな美しさを感じさせる。トイレもコンクリート打ちっ放しの柱に大きなガラスドアをはめ込んであって、それがオープン2週間目にしてきしんでいたのは気になったが、ご愛敬。 チューリッヒの街も見てみたいという気持ちを抑えつつ、50人ばかりが乗った、バスみたいな小さなスイスエアでブリュッセルへと向かった。